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最高裁判所第二小法廷 昭和33年(あ)2499号 決定

主文

本件上告を棄却する。

理由

弁護人山菅正誠の上告趣意は、原判決が刑法二三八条の解釈適用を誤っているから、罪刑法定主義に関する憲法の規定に違反するというのであるが、同条にいう「逮捕ヲ免レ」というのは、窃盗犯人が一般人によって現行犯として一応逮捕され、警察官に引き渡されるまでの間、被逮捕状態を脱するため逮捕者に暴行を加えた場合を含むこと当裁判所判例(昭和三一年(あ)八六三号同三三年一〇月三日第二小法廷決定)の趣旨とするところであって、これを本件について見れば、被告人は昭和三三年六月一日午前一一時二〇分頃京成電鉄津田沼駅より幕張駅に向け進行中の電車内において乗客天白四郎吉の着用していたズボン左側ポケット内から同人所有の現金五千円在中の財布を掏り取り現行犯人として乗務車掌に逮捕され、警察官に引渡すべく連行中同日午前一一時二五分頃右幕張駅下り線ホームにおいて右乗務車掌の隙を窺い逃走を企て右車掌に判示暴行を加え因って同人に判示傷害を与えたというのであるから、被告人の所為は正に窃盗犯人が逮捕を免れるため暴行を為した場合にあたること論をまたない。(所論引用の判例は現行犯として逮捕され留置場に拘禁された後に逃走した場合に関するもので本件に適切でない。)又被告人が右車掌に暴行を加えたのは前記のような状態の下において為されたものである以上、暴行が窃取の時より五分経過して居り電車外のホームで行われたからといって、右暴行は本件窃盗の現行の機会延長の状態で行われたものというべきであるから被告人の所為がいわゆる事後強盗罪を構成すること明らかである。従って所論違憲の主張はその前提を欠くものであり、その余の所論は量刑不当の主張であって、刑訴四〇五条の上告理由に当らない。また記録を調べても同四一一条を適用すべきものとは認められない。

よって同四一四条、三八六条一項三号により裁判官全員一致の意見で主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 小谷勝重 裁判官 河村大助 裁判官 奥野健一)

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